エフピーエムNews 第106号 認知症になったら、親のお金は誰が使う? 〜お盆帰省で始める家族信託の話〜 

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まもなくお盆ですね。今年(2026年)のお盆は8月13日〜16日。久しぶりに実家へ帰省し、ご両親と顔を合わせるという方も多いのではないでしょうか。

そんな時、ふと感じることがあります——「お父さん、少し痩せたかな」「お母さん、同じ話を何度も繰り返すようになった気がする」。久しぶりに会うからこそ気づく、親の小さな変化。実はこれ、多くの子世代が経験する瞬間なのです。

今月号は、そんな帰省をきっかけに考えていただきたい「認知症とお金」のお話です。認知症になった瞬間から、親の預貯金も自宅もすべて「凍結」される——ご存じでしたか?


■ 「認知症になると、お金が使えなくなる」って、本当?

はい、本当です。厚生労働省の推計によると、2022年時点で日本の認知症患者数は約443万人、65歳以上の高齢者の12.3%にあたります。さらに軽度認知障害(MCI)を含めると、2040年には65歳以上の3人に1人が認知機能に関わる何らかの症状を抱えると推計されています。

ここで問題になるのが、認知症により判断能力が失われた時点で、本人の資産は事実上「凍結」されるということです。銀行口座からの引き出し、投資信託の売却、不動産の処分、施設入所契約、保険の変更——これらすべてが本人でも家族でも自由にできなくなります

「家族なんだから、親の口座からお金くらい引き出せるでしょう?」と思う方も多いのですが、金融機関は本人確認と判断能力の有無を厳しくチェックします。認知症の疑いが窓口で分かった時点で、原則として取引は停止されます。


■ 資産凍結で本当に困る「3つの場面」

認知症によって親の資産が凍結されると、家族は次のような場面で大きく困ることになります。

1. 介護費用が親のお金で払えない

特別養護老人ホームや有料老人ホームの費用は、月15〜25万円が一般的です。親の預貯金があっても引き出せないため、子どもが立て替えることになります。10年間介護が続けば、立替金は数千万円規模に。

2. 実家が売却できない

親が施設に入所しても、空き家となった実家を売却できません。固定資産税や維持費だけがかかり続け、資産価値も年々目減りします。

3. 相続対策が一切できなくなる

生前贈与、生命保険の加入・変更、遺言書の作成——これら「元気なうちに」しかできない相続対策が、認知症発症とともにすべて不可能になります。

⚠ 一度凍結された資産は、原則として解除できません
「後見人」を立てる法定手続きにより資産を動かすことは可能ですが、家庭裁判所の管理下に置かれ、家族が自由に使える状態には戻りません。認知症は改善が難しい病気であるため、凍結状態は事実上「一生」続くと考えるべきです。


■ ある家族の話 〜資産1,500万円が使えなかった高橋家〜

【高橋家のケース】新潟市在住・三条市の父を持つ55歳の息子
父は妻に先立たれ、三条市の実家で一人暮らし(80代)。息子は新潟市在住で、月に2回ほど車で実家に通っていた。

ある帰省の時、父が「昨日の夕飯が思い出せない」と言い出しました。当初は「歳のせい」と思っていた息子ですが、半年後、父は認知症と診断され、施設入所が必要な状態に。

施設費用は月20万円。父には預貯金1,500万円があるため、当然そこから支払えると思っていた息子。ところが銀行に行くと——「ご本人の判断能力が確認できないため、お引き出しできません」との回答。

実家(評価額約1,000万円)を売却して費用に充てようとしましたが、こちらも所有者本人(父)の意思確認ができないため売却手続きができず。結局、息子は自分の預金から数百万円を立て替え、法定後見の申立てをして家庭裁判所での手続きを経て、ようやく父の資産を動かせるようになったのは約半年後のことでした。

「元気なうちに、もっと具体的な対策を話し合っておけばよかった」——息子さんは今、そう振り返ります。


■ 対策の選択肢を整理する

「認知症になる前」に取れる対策は、大きく分けて次の4つです。それぞれに特徴があり、どれか一つで完結するというより、組み合わせて設計するのが一般的です。

制度開始時期特徴
法定後見認知症発症後家庭裁判所が後見人を選任。家族以外が就任することも多い
任意後見判断能力があるうちに契約本人が後見人を指定できる。発症後は家庭裁判所の監督下
家族信託判断能力があるうちに契約信頼できる家族が資産管理。不動産の売却も柔軟に対応可能
生前贈与判断能力があるうちにシンプルだが贈与税に注意。所有権は完全に移る

この中で近年特に注目されているのが、「家族信託」です。柔軟性が高く、家族の実情に合わせて設計できるため、独立系FPが総合的な相続・資産管理プランを組む際にも、中心的な選択肢の一つとなっています。


■ 近年注目される「家族信託」とは?

家族信託は、2007年の信託法改正で本格的に活用できるようになった仕組みです。ざっくり言うと、親(委託者)が信頼できる家族(受託者)に、資産の管理・運用・処分を託す契約のこと。

他の制度と比べた家族信託の一番のメリットは、「認知症になっても、家族の判断で資産を動かせる」ことです。実家の売却、預貯金からの介護費用支払い、投資信託の解約——契約であらかじめ決めた範囲内で、家族が柔軟に対応できます。

家族信託が向いているケース
✅ 親が高齢だが、まだ判断能力はしっかりしている
✅ 実家や賃貸物件など「将来売却する可能性のある資産」がある
✅ 兄弟間で、親の資産管理の方針を事前に共有したい
✅ 相続時の分け方まで、親の意向を反映させたい

気になる費用の相場

家族信託を専門家に依頼した場合の費用は、おおむね30〜100万円が相場です(信託財産の規模や不動産の有無で変動)。内訳の目安は次のとおり。

  • コンサルティング報酬:信託財産の1%程度(30〜100万円)
  • 信託契約書(公正証書)作成:10〜15万円程度
  • 不動産登記費用:1件あたり11〜16.5万円程度

初期費用としては決して安くはありませんが、認知症発症後に法定後見を利用すると、後見人報酬が年間20〜60万円ほど発生し続けることを考えると、長期で見れば家族信託が経済的にも合理的なケースが多くあります。


■ お盆帰省が、家族で話す「はじめの一歩」に

認知症の話や資産の話は、親子でも切り出しにくい話題です。だからこそ、家族が集まるお盆はまたとない機会。「相続の話をしよう」と真正面から切り出すのが難しければ、「実家の管理」「通帳の保管場所」「保険の内容」など、具体的な入口から始めるのがおすすめです。

「お父さん、実家の権利証ってどこにしまってる?」「通帳って、もしもの時にすぐ分かるようにしておこうか」——そんな会話が、家族の未来を守る第一歩になります。

エフピーエムでは、家族信託を含む「認知症とお金」に関するご相談を無料でお受けしています。ただし、家族信託の契約書作成や不動産登記といった実務は、法律で定められた専門家(司法書士・行政書士等)の業務領域です。

エフピーエムは独立系FPとして、ご家族のライフプラン全体を見据えた総合的なご相談に対応し、必要に応じて信頼できる地元の司法書士・税理士・弁護士等の専門家をご紹介します。「どこに相談すればいいのかわからない」——そんな方の入口として、ぜひご活用ください。

こんなご相談、よくお受けしています
・「親の預貯金が凍結されるって本当? うちも対策すべき?」
・「家族信託って、うちの家庭にも必要? 費用感を知りたい」
・「家族信託を始めたい。何から相談すればいい? 誰に頼めばいい?」
・「兄弟で意見が分かれている。誰が資産管理役になるべき?」
・「実家の名義を子どもに移した方がいい? 贈与税は?」


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「認知症になってから」では、対策の選択肢はごく限られてしまいます。ご家族が元気なうちに、少しずつ話し合いを始めていただければ幸いです。今年のお盆が、その「はじめの一歩」になりますように。

今月もお読みいただきありがとうございました。